HARD TIMES COME AGAIN NO MORE・・・年末のご挨拶にかえて(今年の10大ニュースを含む)

年の瀬も押し詰まった今日、世情に疎い私も人並みにこの1年を振り返ってみたいと思いつつ、あちらこちらのメディアの公表する今年の10大ニュースなるものに目を通してみた。以下に示すのは、共同通信社のもの。当社は全国の加盟新聞社、民放契約社の編集・論説担当者らが報道現場の視点からの投票で選んだとのことで、ある意味偏りの少ない結果を示していると思われるのでここで参照することにした。

【1位】東日本大震災と東電福島第1原発事故

この件については誰も異論のない1位かと思う。2011年3月11日、この国を襲ったこの厄災は、震度7、マグニチュード9.0の日本観測史上最大規模の震災であったこと、ここで私が云々するほどもなくみなさんがご承知のことである。死者・行方不明者はあわせて2万人を超え、この数字の中には幾人かの私の知人・親戚もその数の中に含まれる。私の生まれ育った町も跡形もなくその姿を奪われた。あれこれと思いはある。しかしながら書き始めれば、私の中からわき出るそれは際限がなくなる。だから・・・この件について今日はもう書かない。

【2位】菅首相が居座りの末退陣、ドジョウ野田内閣誕生

居座ったかどうかは別として、まあ・・・誰が首相であったとしても同じようなことしかできなかったんじゃないかなと思う。そして誰がその後を引き継いだとしても・・・

【3位】サッカー女子W杯、なでしこジャパン世界一

残念ながら私にはあんまり興味がない。かえって楽天のマー君の沢村賞受賞のほうがうれしかったかな・・・・サッカーフアンの人、ごめんなさい。

【4位】円が戦後最高値を更新、円売り介入、輸出産業苦境に

輸入産業は?・・・円高の恩恵の方にはあんまり縁がなかったような気がする。経済の仕組みに疎いのでどうもその辺りのところが理解できない。

【5位】野田首相がTPP交渉参加を表明

参加しなければならないとする側の理屈も、反対の側の思いも、どっちも分かるような気がして、どっちがよかったのか私には判断できない。参加した場合としなかった場合のメリット・デメリットをならべて説明してくれたらわかりやすかったのにと思う。この件に関してはかなり前から論議があったことは知ってはいたが、その説明が国民に向けて充分に時間をかけてなされていたかどうかという点になると・・・どうも、疑問だ。

【6位】東電が初の計画停電、夏は15%節電

ようは原発が今ほど無くても何とかなることを証明できたということ。かつて反原発の論議が盛んになされていた頃、原発を推進する側の脅し文句に、それから先の電力不足があったが、この夏を何とか過ごしたことでその論拠はだいぶ弱くなったのではないかと思う。まあ、素人判断なので確信は持てないが・・・少なくとも、原発だけに頼るあり方は考え直されなければならないでろう。

【7位】政府要請で浜岡原発停止、九電ではやらせメール問題

浜岡原発の停止は・・・まあ、世論の動向を考えても仕方なかったのではないかと思う。やらせメールについては、九州電力だけにあったことではないと思う。

【8位】大阪ダブル選で橋下氏、愛知トリプル選で河村氏側完勝

それぞれの自治体の住民の選択が本当によかったのかとの思いは強い。もちろんあれだけの指示を受けてこの結果を得たのだから、その政策の遂行はどうぞ御勝手にとは思う(個人的にはもちろん反対)のだが、その手法はどうもなじめないものを感じる。同じなじめないもの感じている辺見庸の一文を引用する。

≪幻燈のファシズム ― 震災後のなにげない異様 ―≫
人びとの情動は、おそらく戦後もっとも大きなゆれ幅で日々うねりをくりかえしている。知りあいの古老によれば、いまの社会的心状はむしろ戦時につうじるものがあるという。ものごとは国家、地域、集団、組織優先が当然とされ、生身の個人はのどもとまででかかった異論を呑みこんでしまう。

教員に「君が代」の起立斉唱を義務づける条例案が大阪府で提出されたのはそんなときだった。複数回違反すれば懲戒免職とするのだそうだ。おどろいたのは、その恫喝的で戦時統制的な中身だけではない。あたかも条例案提出をすかさずあと押しするかのように、君が代斉唱時の起立を命じた校長による職務命令は「思想・良心の自由」を保障した憲法十九条に違反しないという判断が、最高裁の上告審判決で示された。うたえと命じられているのにあの歌をうたわない者、立てと命じられているのに起立しない個人は、社会から排除してもよろしいと言わんばかりだ。惘然(もうぜん)として天をあおぐ。大津波の映像をはじめてみたときの、信じがたく、よるべないおもいがぶりかえした。大震災と原発事故でかつてない心的外傷を負ったこの国は、だれもそうはっきりとは自覚しないにせよ、今風のファシズムのただなかにいるのではないか。

この件について、世論はしかし、いたって静かである。毎日のように震災に負けない日本人のつよさ、がんばり、きずな、おもいやり、団結がこれでもかこれでもかと報じられ、「ふるさと」や「上を向いて歩こう」がおもいをこめてうたわれ、他方では、さしもたくさんの人の命をのんだ海で若者たちがサーフィンに興じ、競艇も競馬も競輪も客足をとりもどしつつある。被災地からはなれた場所での日常復元の速度はあきれるほどである。七十年以上まえに石川淳が小説「マルスの歌」に記したスケッチをふとおもいだす。「たれひとりとくにこれといって風変わりな、怪奇な、不可思議な真似をしているわけでもないのに、平凡でしかないめいめいの姿が異様に映し出されるということはさらに異様であった」。日本的ファシズムの淡彩描写でこれほど虚をつく文はない。日本型ファシズムの特質は、人があえて争わない諧調にあり、表面はとても異形には見えないところにある。石川はそれを戦争の実時間にあって勇気をもって活写しえたじつに数少ない作家である。石川のいうなにげない異様を、わたしはいまに感じる。

かつて君が代をうたわなかった先生たち、起立しなかった人びとが、いまはすっくと立ち、明らかな声にしてうたうのだそうだ。そのような人びとの内面はあまりにもつらく、たわんではいないか。そうさせているものはなにか。あの歌をうたわないですむ会社や組織に同質の異様はないのか。うたいたくない者に直立不動でうたわせる社会はまっとうだろうか。石川淳はファシズムの季節の光と影のゆがみについて書いている。「ひとびとの影はその在るべき位置からずれてうごくのであろうか。この幻燈では、光線がぼやけ、曇り、濁り、それが場所をゆがめてしまう」。問題はむろん、テレビが放(ひ)りだしたガスのような大阪府知事ひとりにあるのではない。わたしたちひとりびとりの、あるべき位置からのずれを、醒めて見つめるべきではないか。(6月6日北海道新聞夕刊)

長い引用になってしまった。しかしながらこのニュースの重要性は私にとってそれに値するような出来事であった。故に個人的にはこのニュースが第8位に位置づけられていることが理解できない。もっと上位・・・2位ぐらいに位置づけてもよいのではないかと思う。なぜなら・・・事と次第によってはこれからのこの国の形に大きな影を落とすような出来事なのだから・・・

【9位】小沢民主党元代表を強制起訴、元秘書3人は有罪

敢えて言う。小沢が起訴に相当するようなことを行っていないとは私とて信じていない。けれども彼が、そのことで起訴されるようなミスをおかすとは思えない。してみれば、今回の起訴にはそれだけの根拠があったとはとても思えない。だから、逆に今回の起訴は、小沢ならこれぐらいのことはやりかねないとの世論(思い込み?)におされての起訴のように思えて仕方がない。とすると、逆にそこに今の世の中に対する一抹の怖さを覚えずにはいられない。

【10位】八百長問題で大相撲春場所中止、25人が角界追放

歴史的に言えば、相撲は神聖な行事。占いごとであった。したがってその勝負は、万民(支配者?)に都合のようにつかなければならなかっただろうから、相撲には八百長は付きものといってよい。ただ・・・今回の件は万民(支配者)のためではなく、力士個人のためであったことは問題だとは思う。

1位から10位までのこのニュースを眺めた時、明るいニュースと言えるのは・・・「なでしこジャパン」の活躍ぐらいであろうか。あとは・・・心沈むような出来事ばかりである。まあ、例年、十大ニュースとはこんなものだといえばそこまでだが・・・今年は・・・尋常ではない。ついつい悲観的な感慨にふけってしまう自分がここにある。

そんなときは・・・心、暖まる・・・そんな歌を聴いてみたいものだ。

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フォスターの「HARD TIMES COME AGAIN NO MORE」だ。もとは英語の歌なので語学には疎い私には、その内容は訳詩によってうかがい知るしかない。が、こんな年の暮れには、こんな優しい歌を聴いて夜を過ごすのにしくはない。

HARD TIMES COME AGAIN NO MORE・・・年末のご挨拶にかえて(今年の10大ニュースを含む)” への9件のフィードバック

  1. 大阪市長選に関しては陰鬱たる思いでおられるのではと
    察しておりましたが……、
    僕は橋本氏にというより
    平気で手の平を返せるこの国の政治家たちの厚顔無恥な
    無節操さにあいた口がふさがりませんでした。

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    1. 根岸さんへ

      中央の政治家の無節操さに関しては、ある程度は想定できていたことではありましたが、
      まさかあそこまでとは・・・同じく開いた口のふさがらない思いでした。
      だからこそ、隣の府知事のような存在が生まれてきたんでしょう。

      数年先のこの国がどうなっているか・・・ちょいと心配です。

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  2. >三友亭さん

     正月のお酒しか楽しみがないとは、末世ですね。

     TPP交渉は、いいも悪いも有利も不利もあったものではなく、アメリカ様のご命令だから、しかたがないのでしょう。自民党は反対の立場らしいけれど、もし与党だったら当然ドンドン進めているでしょうね。

     政治家はしょせん堅気の商売じゃありませんよ。信じなければ裏切られないということでしょうか。

     あまりにもバカバカしいから、模型飛行機でも飛ばして遊んだほうがいいかもしれません。

     乱れたご政道はしかたがないとして、せめて来年は天変地異に見舞われぬよう、心から祈っております。

     おだやかな年末年始をお迎えください。

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    1. 薄氷堂さんへ

      今年も1年間、私の戯言にお付き合いいただき本当にありがとうございます。
      しかしまあ・・・本当に困った世の中で・・・

      天変地異に見舞われぬだけでも幸運としか言いようのない・・・そんな世の中が情けなくもあるのですが・・・

      まあ、そんなことはこの数日間は置いといて、おいしい酒でぼうっとしながら過ごしてみたいと思います。

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  3. >三友亭さん

     歳末大売り出しのおまけです。

     いづこの田圃より拾ひあげしものなるやを知らず、

      汁にして食いたくもなき泥鰌かな

     活躍せしはあつぱれなれど、なでしこの名はいかがかと思ひて、

      ひまはりは派手になでしこひつそりと

     神仏にあらず、旗は旗、歌は歌に過ぎざるやと思いて、

      君が代は日の丸弁当立つて食ひ

     世間ではこれを詐欺といふに非ずや、

      オール電化売つて電気を停めにけり

     暴力装置といひたくはなけれど、

      検察や起訴路はすべて藪の中

     こんなとこかなあ。十句は無理でした。  

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    1. 薄氷堂さんへ

      いやあ~お見事。

      私もこんなふうにひねり出せればいいんですけどね。
      どうも創作の方は・・・(笑)

      文学部にいたころ先生方の御主張には二通りあって・・・
      曰く
        水から創作にかかわったほうが、作者の気持ちに迫ることができる。よって、文学の研究に携わるならば自らも創作にかかわるべし。
      曰く
        水からは創作にかかわると他者の作を読もうとしたとき、どうしても自分の創作時の思いと作者の気持ちを同列に並べてしまい、そこに主観の入る余地がある。よって文学研究に携わろうというものは創作にかかわってはいけない。

      私の師が後者の立場でしたので・・・今なお・・・といっても、文学の研究に携わっているわけでもないので関係ないんですけどね。

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      1. >三友亭さん

         いえいえ、とても創作などと呼べるレベルではありません。おまけに仮名づかいを直したつもりが、バラバラになってしまいましたね。

         なるほど文学部の先生にもお立場のちがいはあるでしょうね。

         特に文法解釈上の問題などを含む厳密な研究論文の場合、妙な思い入れやクセのある文章を書いてはまずいと思います。心を鬼にして(?)、筆を抑えなくてはいけないでしょう。

         しかしたとえばおもしろい小説を扱った論文が、無味乾燥すぎるのも困りものですね。先を読もうという気にさせるためには、やはり数頁に一ヶ所はキラリと光る表現が欲しいところです。さじ加減はむずかしいですけれど。

         みなさんむずかしいことばかりお書きになるから、ぼくは学校から定期的に配られた『なんとか文学』を全部捨ててしまいました(笑)。いまなら読もうという気がないわけではないので、取っておけばよかったかなあ、とちょっぴり後悔しています。

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      2. 薄氷堂さんへ

        確かに学術論文を読んでいても、ぐいぐいと呼んでいるものを引っ張って行くような力を持ったもの(まるで薄氷堂さんのブログのように)にお目にかかることがありますが、大概は書かれてある内容が自分にとって必要なこちであるから少々我慢をしつつ・・・というのが多くの場合ですね。それでも、そこにある内容が興味深いものであったりすると・・・先へ先へと読み進んでいっちゃいますがね。
        どうにも我慢ならないのは大したことを論述しているわけでもないのに大仰な物言いで並べ立てる(まるで私の文章のような)論文。
        まあそんな学術論文を読むような機会は今、ほとんどないのですから、どうだっていい事なんですけどね。

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